●2005年・岩・沢における確保技術の講習会●

【日程】2004年7月10日(日)
【場所】横須賀市・鷹取山

 クライミングの途中で登っているパートナーが墜落したらどうなるでしょうか? その時あなたは冷静でいられますか? この講習会では、基礎のロープワークから正しいビレイの方法、相手を確保した状態から実際に数十Kgのおもりを落下させて墜落の際の衝撃を体験しました。

 普段なかなか大変できない経験だけに、受講生の方々は一様に「良い経験になった」と満足していただけました。

<<<主な講習内容>>>
1、基礎のロープワーク
(支点作成/自己確保/仮固定/ロープの結束)

2、確保器の取り扱い(ATC/ルベルソ/ピウなど)

3、確保実習
(人間の重量相当の「おもり」を落下させ 確保を行う)


●写真(1)↓
ギアを装着し準備をする受講生



●写真(2)← 講習場・全景

 湘南鷹取山の展望台の岩壁を利用して、上部から支点を吊し、それに対して「おもり」を装着します。それを人力で引き上げて、ストッパーで固定したのち、ビレイヤーは確保体制に入り、フックを外して「おもり」を落下させて墜落実験を行います。



●写真(3)→ 確保体制のチェック

 セルフビレイをセットした後、メインロープをビレイデバイス(確保器具)に装着します。
 セルフビレイの取り方と位置どり(ポジショニング)は重要です。クライマーが落下したとき、ロープがどの方向に引っ張られるのかを頭の中でイメージして、その衝撃が最も少なくなる位置に立つ必要があります。

 



●写真(4)← おもりを引き上げます

 メインロープとは別のロープを「おもり」に装着し、人力で引き上げます。支点よりも2mほど上に上がったところで、ユマールなどのストッパーを使ってロックします。



●写真(5)→ いよいよ落下実験開始!

 この状態では、クライマーがランニングビレイ支点の2mほど上部を登っている状態(ラン・アウト)なので、ここで落ちると、4mの距離を落下することになります。
 その衝撃やいかに!?



●写真(6)← 墜落の衝撃!

 50kgのおもりが4m落下した状態の衝撃をシミュレーションしました。その衝撃は大人の男性が飛んでしまうほどのものです。
 実際のクライミングでは重い男性が装備を背負っていると、80〜90kgほどの重さになってしまうはずです。50kgでこの衝撃ですから、実際の衝撃はもっと大きいはずです。
 「グランドフォールをさせない」という絶対条件がありますが、もし余裕があるのなら、ロープを少し流して、徐々に摩擦を増やして制動をするのが、理想的なダイナミックビレイです。
 支点の強度に信頼のおけない冬山などではなおさら必要な技術です。



●写真(7)→ 墜落の衝撃2!

 男性でもあれだけ飛んでしまうのですから、ましてや体重の軽い女性でしたら、もう「ぬいぐるみ」のようにポンポン飛んでしまいます。
 女性が体重差の大きい男性をビレイするときには、より慎重にセルフビレイのチェックとポジショニングを確認する必要があります。
 実際の現場では、まずは「グランドフォールをさせない」ということが第一条件なので、急制動をかけるのはある程度やむおえないこと。そうなるとなおさら、セルフビレイのセッテイングが重要ということになります。



●写真(8)← 墜落時のロープの動き

 墜落時にはロープが急に走るので、素手では火傷をしてしまいます。必ずグローブを装着するようにしましょう。
 また、半袖で肌を露出していると、走るロープでやはり火傷をしてしまいます。たとえ暑くとも、長袖のシャツを着用するのがベターです。
 女性の方で、「三つ編みにしている髪がロープとデイバスの間に巻き込まれる」という事故がありました。また、シャツの端が巻き込まれるという報告もあったので、そのあたりの処置をきちんとしておきましょう。



●写真(9)→ 墜落時のロープの動き2

 ご覧のように、墜落時にはロープがまるでのたうつ大蛇のようにムチのようにしなって襲いかかります。その時かたわらに居るパーティの仲間などが巻き込まれる可能性もあり、その時セルフビレイをとっていないと、走るロープの衝撃で落下してしまう危険もあります。基礎を大切に、危険箇所ではきちんとセルフビレイをとるようにしましょう。



●写真(10)← すりきれたロープ

 数多くの墜落のショックにより、ロープが摩擦に耐えられなくなり、表皮がはげて、コア(心線)が露出してしまいました。
 このようなロープはもはや伸縮性を失っているので、絶対に使用してはいけません。



●写真(11)→ ショックアブソーバ

 今回、ペツル社の「ショックアブソーバ」を墜落実験に使用してみました。メインロープに装着して使用します。強い衝撃が加わると、接着縫合されたテープ部が開くことによって衝撃を和らげる仕組みになっています。



●写真(12)← 使用後のショックアブソーバ

 墜落後、縫合部が開いたショックアブソーバ。数値測定をしたわけではありませんが、確実に墜落時の衝撃を和らげられるようです。
 実際のクライミングでこれを使用するケースはあまりないと思われますが。しかし墜落時の衝撃がダイレクトに支点にかかってしまうような「ソロ・クライミング」では有効と思われます。
 近年のクライミングデバイスの進歩はめざましいものがありますので、県連遭対部でも今後もこのような実験・報告をしてゆきたいと思います。

■文責:鳥越@小田原ナーゲル



●●● 確保講習会資料 ●●●

2005.07.10 神奈川県勤労者山岳連盟・遭対部

<<<メニュー>>>
(1) 支点の取り方
(2) トップクライマーのためのセカンドの確保体制
(3) トップクライマーのためのセカンドの確保方法
(4) 墜落確保実験
(5) 確保器の種類と特徴

※参加者は基本的なロープワークは修得済みとする


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■1.安全な支点の取り方
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<<<ポイント>>>
(1-1) ハーケン、ボルトの場合は事前に効きをチェックする。
(1-2) 不安な支点では「流動分散」を行う。(→ Fig1-1
(1-3) 流動分散に8ノットを行うと、外れたときの墜落距離を少なくできるが、分散能力が落ちるので、力のかかる方向を見きわめてセットすること。
(1-4) 自然の中では、岩や立ち木にタイオフをすることも多い。(ナチュラル・プロテクション)(→ Fig1-2,1-3

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■2.トップクライマーのためのセカンドの確保体制
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<<<ポイント>>>
(2-1) ボディビレイが原則。(※支点ビレイは墜落荷重により支点が破壊される危険あり)
(2-2) ただしボディビレイでは確保位置が不適切だとバランスを崩す。
  (※→ポジショニングの重要性)
(2-3) トップが墜落すると壁に引かれるので壁から離れすぎない。(→ Fig2-1
(2-3) トップが墜落したときにロープが引かれると想定される位置に正対する。
  (※→セルフビレイ支点と最初のランニング支点の線上に立つ)
(2-4) ロープが引かれた時に体に当たらないように「半身」になって構える。(→ Fig2-2
(2-5) 墜落時に体が引かれるため、セルフビレイのロープはたるませすぎない。

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■3.トップクライマーのためのセカンドの確保方法
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<<<ポイント>>>
(3-1) ロープが走ったときの摩擦熱に耐えるようにグローブをする。
(3-2) 肩や腕に力を入れてはいけない。あくまでデバイスによるロープの「摩擦抵抗」で止め、荷重は「腰で受けとめる」意識が必要。
(3-3) トップはいつ落ちるか分からない、「折り返し側のロープ」を常に離さない方式を修得する。(→ Fig3-1
(3-4) くどいようだが、「折り返し側のロープ」は「絶対にフリーにしてはならない!!!」

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■4.墜落確保実験
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<<<ポイント>>>
(4-1) オーバーハングなどでトップクライマーが「真っ逆さま」に落ちたことを想定する。
(4-2) 近年のビレイデバイスは優秀だが、急に制動をかけると衝撃による、(a.ビレイヤーがバランスを崩す、b.支点が破壊される)などの弊害がある。
(4-3) よって(※グランドフォールしない範囲で)適切にロープを流して衝撃を和らげる。
(4-4) 「力」に頼ってはいけない、あくまで「折り返しロープの角度」で摩擦をコントロールする。

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■5.確保器の種類
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<<<旧式の方法>>>(しかし覚えておくと緊急時に役立つ)

(5-1) カラビナによるムンターヒッチ(半マスト)
→ ロープがキンクしやすい(からみやすい)。
→ もしやるとすれば「安全環付きビナ」で行うこと。

(5-2) エイト環(→ Fig5-1,5-2
→ 懸垂下降用のデバイスとして最もポピュラー
→ ロープがキンクしやすい
→ ダブルロープでは一方のロープが走ったときに摩擦熱で切断する危険があるので「絶対に行ってはいけない!!」

(5-3) ATC(BlackDiamond社)(→ Fig5-3
→ セカンドによるトップの確保では、最もポピュラー。
→ ロープがキンクしづらく、繰り出し、巻き上げもし易い。
→ 穴が2つあるので、ダブルロープでも安全に独立して操作可能。
→ 懸垂下降用のデバイスとしても使えることを覚えておくと、8環を落としても慌てずに済む。

(5-4) ジジ(KONG社)(→ Fig5-4)
→ (本講習の主旨からはそれるが)トップがセカンドクライマーの確保を行うための器具
→ 支点にセットし、穴にロープを通してカラビナをセットする
  (※下のロープがビレイヤー側、上のロープがクライマー側)
→ セカンドが墜落すると、上のロープが下のロープを押さえ込む「オートロック機構」が働くのが最大の特徴。
→ ただし、「ロックしたロープを戻す」操作には細心の注意が必要。

(5-5) ルベルソ(PETZL社)(→ Fig5-5
→ ATCの機能とジジの機能を併せ持つ、マルチスポーツクライミング用デバイス。
→ これひとつあればアルパインクライミングに求められる、a.トップのビレイ、b.セカンドのビレイ、c.懸垂下降、の3つの機能を全て満たす。
→ ただしジジと同じく「ロックしたロープを戻す」時には技術の習得と注意を要する。
→ 懸垂下降ではエイト環ほど熱くならない。
→ ただし、摩擦が弱めなので、トップのビレイ時、および空中懸垂などでは注意が必要

(5-6) ピウ(CASSIN社)(→ Fig5-6
→ ルベルソと同様にATCとジジの機能を併せ持つ。
→ 「オートロック」の長所と短所については、ジジ、ルベルソと同じ。
→ ルベルソに比べて「ロープの操作性に優れる」とう意見がある。
→ ルベルソに比べて「音が少ない」という意見がある。

(5-7) ※これらデバイスで確保を行う際のの注意点※

 トップの確保をするためには、ATCタイプのデバイスが有効だが、折り返しロープの角度が同じであっても、デバイスによって微妙に「摩擦係数」が異なるようである。
(例:ルベルソはATCに比べて摩擦が弱め。また、向きを変更することにより摩擦係数を変えられる「バリアブル・コントローラー」という器具もある)
 これらは自分の使っている器具を使い込んで慣れるしかない。


■ 以 上 ■