利根川源流部・本谷遡行記録
2004/08/14 小田原ナーゲル山の会・鳥越章夫
◆日程◆
2004/08/11(水)〜13(金)
◆メンバー◆
CL:椎谷 繁實(相模労山)
SL:後藤 真一(カモの会)
記録:鳥越 章夫(小田原ナーゲル山の会)
:小野 郁夫(アルパインクラブ横浜)
:古屋 裕毅(アルパインクラブ横浜)
◆↓写真集をご覧になりながらお読みください◆
◆遡行タイム◆
<2004/08/11>
06:30奥利根ダム 〜(マリンボート)〜 07:30バックウォーター(割沢出合)〜
08:00見返峠を越えて、赤倉沢より本谷へ入渓 〜 8:30水長沢出合 〜 09:40井戸
沢出合 〜 10:20越後沢出合 〜12:00牧ヶ倉沢出合 〜 13:00滝ヶ倉沢出合(ビバー
ク)
<2004/08/12>
04:30起床・朝食、06:05出発 〜 6:45雪渓出現 〜 07:40裏越後沢出合08:30 〜
10:00魚留の滝11:15 〜 12:45大利根滝13:45 〜 15:00佐市平(ビバーク)
<2004/08/13>
04:30起床・朝食、06:10出発 〜 08:30人参滝 〜 09:00深山滝 〜 10:00赤沢滝 〜
12:40利根川水源碑(遡行完了) 13:20 〜 13:40丹後山 〜 16:20十字峡
◆遡行記録◆
<2004/08/10>
8/10に鳥越車と後藤車は新潟県六日町にある三国川ダムの十字峡(下山予定地)
に向かい、駐車場に後藤車をデポし、そのまま後藤氏は鳥越車に乗ってJR湯桧曽
駅にてステーションビバーク。
深夜01:30ごろ、小野車にて、椎谷氏、小野氏、古屋氏が合流。
<2004/08/11>
05:00起床して車2台に分乗し、矢木沢ダムゲートに向かう。06:00開門、10分
ほど車を走らせ、矢木沢ダムまで入る。既に予約済みの奥利根マリンボートに乗
船し、快晴の奥利根湖を一気に北上、30分ほどでバックウォーター(湖の最北
端)に到着する。湖岸の歩道は今はほとんど廃道となっているので、事実上ボー
トが奥利根にアプローチする唯一の手段である。この時期、水不足のためか割沢
付近がバックウォーターであった。
下船した場所はまるで泥田のような泥濘地で、各員、足が抜けなくなるハプニ
ングがあった。なんとかその場を離れて、見返り峠のヤブを越えて、赤倉沢出合
より本谷に下降、遡行開始。
天候は快晴。空は青く、山の緑は青々として爽快。広い河原を徒渉しながら進
む。奥利根源流部は自然環境保全地域に指定されたため、上流部での開発が禁止
されているために人工物が全く無く、そのため沢の流れはあくまで清らかで汚れ
がない。水は澄んで、川床の色をそのまま映し、対岸の緑は水面に反射して緑映
となって、ゆらゆらと揺らめいてその美しさは見飽きることが無かった。
ここしばらく降水がなかったためか、水量は少なく、また、河床は土砂で埋め
られているために、最初の難所『シッケイガマワシ』のゴルジュはほとんどの箇
所で問題なく通過できた。次の難所、剣ヶ倉土合のゴルジュ帯も、遡行図には
「泳ぎが必要な狭いゴルジュが100m続く」と書かれているが、悲しいことか、ほ
とんどが土砂で埋まっていてただの河原歩きと化していた。ところどころ淵が見
られるものの、容易なへつりで通過可能であった。緊張していた分、拍子抜けし
た感じである。ゴルジュ内の名所『ヒトマタギ』をメンバー各員がひとまたぎし
て記念写真を撮って通過する。
13:00滝ヶ倉沢出合に到着。早すぎるが、無理をせず、ここで初日のビバーク
ポイントとする、出合の左手の尾根の上に土手のような草むらがあり、そこでツェ
ルトを張って寝床とした。薪を集めて焚き火を開始、椎谷氏の獲物である一匹の
岩魚を焼いて、日本酒につけて皆で食べる。旨い。
<2004/08/12>
朝食にそうめんを食べて出発、本日はいよいよ3番目の難所『オイックイ』に
進入する。しばらく河原を歩くと、沢の曲がり角の向こうから、白い霧のような
冷気が立ちこめてくる、いよいよ雪渓の登場である。事前の報告では雪渓は5カ
所とのことだったが、最初の雪渓のスノーブリッジは崩壊して雪のブロックがズ
タズタになって河原に積まれていた。2次崩壊をしないように慎重に通過する。
さらにゴーロを進むと、ついにスノーブリッジが出現。中央が薄く湾曲し、両
脇が谷の斜面にかろうじて乗っている様子は見るからに危険。ひとりずつ間隔を
おいて出発し、大きな音を立てないようにして粛々としかし迅速に通過。内部か
ら上を見上げると所々に穴が空いて、外の光が差し込んでくる。さながら怪物の
はらわたの中を進んでいるようなプレッシャー。今この時に雪渓が崩壊したら、
ガチガチに圧縮された雪のブロックに押しつぶされてひとたまりもないことでしょ
う。
そうこうして全ての雪渓を通過完了。安堵の念がパーティに広がる。裏越後沢
出合にて休憩、天候は本日も快晴、青い空と緑の森が目に眩しい、あたりはすっ
かり奥利根の原始の森である。休憩中に椎谷氏と小野氏が竿を出して、2匹のイ
ワナをゲット。塩漬けにして夕食のおかずとして楽しみにして運ぶ。
奇勝のゴルジュやいくつかの釜、淵、小滝を乗り越えて進むと、そろそろ登り
ごたえのある滝が出現する。まずは7m2条の『魚留の滝』。左のルンゼを登り
巻く。次は2段7mの『ヒョングリの滝』。1段目の釜で水が跳ね上がり、ほん
とうに「ヒョングっている」ように見える。谷が左に屈曲し、いっそう深くなっ
たかと思うと、次に現れたのはいよいよ本命の20m『大利根滝』。右のバンド
を登ってクリア。狭いゴルジュを通過して、ビバークポイントの『ハト平』に到
着、しかし時間がまだあるので、明日の行動を楽にするために、次のビバークポ
イント『佐市平(C3)』まで歩を進めた。
C3のビバークポイントは河原のすぐそばが1mほどの土手になっていて、広
くて快適なテントサイト。ここまで登れば増水の心配も少なくなるので、まさに
天国のようなサイトと言える。さっそくタープを張り、薪をあつめて焚き火を開
始。戦利品のイワナ2匹をこんがりと焼いて食す。半日運搬した塩漬けのイワナ
は、タンパク質がアミノ酸に変わり、絶妙の旨さを醸し出していた。椎谷氏に感
謝である。
見事な夕焼けの後は、降るような星空。天の川も見え、時折、流れ星が降るよ
うに落ちてくる。夜中に起き出してくると偶然かどうか、光跡がはっきりと残る
ような特大の流星も見ることができた。まるで夜空の天空の黒いヴェールをナイ
フで引き裂くように光が一閃し、稜線付近でパッと輝いて消滅した、特大の隕石
だったのだろうか、実に見事であった。
しかしながら晴天のために放射冷却が起きて、周囲の山々の温められた空気は
上昇し、代わりに我々が居る谷底にはどんどんと冷気が沈下してきた。あまりの
寒さにシュラフカバーだけでは眠れない。ブルブルと身体は震え、うつらうつら
としながら無為に時間を過ごす。早朝に温度計を見てみたら、なんと9℃まで冷
え込んでいた! 下界の猛暑がウソのような寒さであった。
<2004/08/13>
いよいよ最終日、利根川源流部遡行もクライマックスを迎えた。釜を持つ小滝
をいくつか超えて、ゴーロを進む、このまま終わってくれればいいと思っていた
が、そうは甘くはなかった。両脇が切り立った深い釜を持つ滝が現れ、進めない。
巻き道も斜度がきつくて危ない。釜を泳いで滝に取り付いて登る、シャワークラ
イムだ。
それまで緩やかだった沢の勾配はここへ来て突然、急になり、高度感を持った
10〜20mクラスの滝が出現してくる。岩は濡れていて苔がついて滑りやすい。
安全のためにロープを出す。15m『人参の滝』は左岸にあるリッジ状の岩を登
りヤブを漕いで下降した。20m『深山滝』はロープを出して、右手の草つきバ
ンドを直登するがしかし岩が逆層気味になっていてイヤらしい。
次は4段20mの『赤沢の滝』。その名の通り、岩が赤くなっていて、とても
もろい。ホールドの岩がはがれるのでへつるのは危険、直登してチョックストー
ンを越える。
最後の大滝は15m『赤岩の水上滝』。ここも岩が逆層気味で、しかももろい
ので非常に神経を使った。支点として打ち込んだハーケンを回収しようとしてハ
ンマーでたたいたら、一撃であっさりとポロリと岩ごとはがれ落ちて呆気にとら
れた。支点の役目を果たしていなかったのである。冷や冷やものである。
最後の最後にきて大滝のオンパレードとは骨がある。さすがは奥利根源流部で
ある。そうこうして大滝を全てクリアした後は、急なゴーロを登って高度を稼い
でゆく、徐々に谷は浅く広がりを持つようになり、高い木は無くなり緑の草地と
化し、青空の面積が広くなってきた。源頭部が近いことを実感する。水流は徐々
に細くなり、やがて岩の間からチョロチョロと流れる「最初の一滴」となった。
正真正銘、大河利根川の源流である。
水は伏流水となって地面の下に隠れた。大雨の時だけ水流となる「乾いた沢」
を詰め登り、とうとう『三角雪田』の跡地に出た。今年の高温では雪田は無くなっ
ているであろうと思われたが、あにはからんや、幅3〜40cmほどではあった
が、確かに雪田は残っていたのである! 枯れ草の表面にうっすらと、容量にし
て1リットルほどであろうか、しかし後藤氏は念願の利根川源頭部の「最後の雪
渓」を口に含み、感動している、目にはうっすらと光るものがあった。
周りを見回せば、燦々とした陽光に照らされた山野草やピンク色のコザクラソ
ウが草地の間から顔を覗かせて風に揺られていた。不思議なことに、稜線を吹き
渡る爽やかな風には既に秋の気配を感じられるのだが、雪渓が溶けたばかりのこ
の雪田跡では、植物たちにとっては今がまさに春なのである。長いあいだ雪の中
に閉ざされていた世界から、今まさに太陽の下に顔を出して、短い生命の期間を
せいいっぱい謳歌しているその姿には感動を禁じえない。
源頭部を詰め登り、とうとう稜線に到達。快晴の空の下、上越の山々が遙かに
見渡せる。まるで緑の絨毯を敷き詰めたようなたおやかな稜線。そこに『利根川
水源碑』は確かにあった。3日間の苦労を分かち合ったメンバーが皆で握手を交
わしあい、喜びを分かち合う、感激の瞬間である。
振り替えれば越後三山のひとつ、中ノ岳の雄姿が迫る。遙か遠くには、巻機山
や平ヶ岳、荒沢岳といった上越の名山が見渡せる。丹後山の緑の笹原の草原の上
には青い空の中に白い雲がぽっかりと浮かんでは流れてゆく。まさに理想郷であ
る。
車の回収の時間がせまっている、登攀装備をパックにしまいこみ、軽く食事を
した後に出発。丹後山と避難小屋を経て、十字峡への尾根を一気に駆け下る。
それにしても丹後山登山道はなんと急峻なのだろう、つづら折りなど無く、まさ
に尾根を一直線に『直登』している。きっと多量の雪のために尾根以外に登山道
を造れないのだろう。
乾燥して土埃の舞うブナに囲まれた登山道を一直線に駆け下りる。それにして
も稜線の爽やかさとうってかわって、下界が近づくにつれて上昇する気温と湿度
はたまらない。急激な下りで膝がガクガク言う。気分が悪くなってきた。
はっきり言ってこのプランの核心部は、実はこの丹後山の下りであった。(笑)
3時間弱で急な尾根の下りを終えて林道に到着、20分ほど歩くと、10日に
デポした車のある駐車場に到着。車に乗車して関越道を飛ばして水上I.C.で降り、
矢木沢ダムの駐車場まで戻って、無事にゲートの閉まる18:30の10分ほど
前に3台全ての車の脱出を完了した。ぎりぎりセーフであった。これもまた核心
であった。
◆総括◆
奥利根源流部遡行は『5級』の沢となっているが、今回は天候に恵まれて、水
量が少なく、ゴルジュ帯はほとんど巻くことなく問題なく通過できた。雪渓もこ
の時期にしては少なく、2日目までの印象では3級である。しかしクライマック
スの大滝の連続では緊張のある登りを強いられるので、そういう意味では
今回のグレードはトータル4級と言えるだろう。
しかし天候がひとたび悪化すれば奥利根源流部が牙を剥くことは必死で、ゴル
ジュ帯が土砂で埋まっているということは、大雨のたびにそれだけ大きな氾濫が
あったことを示している。そうなれば3日で抜けることは不可能となり4〜5日
の日程が必要になることもあると思われる。
今回の遡行ではメンバー全員がある程度の沢の経験を積んでいて、足並みが揃
っていたために成し遂げた記録であったが、それでも大滝で巻いたりロープを出
したりした時には1時間弱の時間がかかっている、メンバーの練度によってはそ
れ以上の時間が必要となると思われる。
また、谷底の放射冷却を甘く見ていたために防寒具が足りずに熟睡できなかっ
た。寝不足の状態では身体が最適なパフォーマンスを発揮できずに、事故が発生
するリスクが増す。それは今回の大きな反省点であった。
最後に、長いようでいて、あっという間の3日間でした、豊富な経験でCLを
務めていただいた相模労山の椎谷氏、ビデオ撮影をしていただいたカモの会の後
藤氏、終始先頭で遡行をリードしていただいたアルパインクラブ横浜の小野氏、
フリークライミングの能力を活かして滝の登攀でリードをしていただいた同じく
アルパインクラブ横浜の古屋氏、の各氏に感謝いたします。
■ 以 上 ■